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医療施設 機能の耐震性

 厚生労働省がまとめた耐震改修状況調査の結果によると、平成24年の調査では、全国の病院の耐震化率は61.4%(平成22年56.7%)、災害拠点病院・救命救急センターは73.0%(同66.2%)となっています。長野県においては、病院が56.5%(平成24年)、災害拠点病院・救命救急センターは63.6%(同)と全国平均を下回っている状況です。平成24年度までの補正予算等で措置された医療施設耐震化臨時特例交付金による耐震整備により、災害拠点病院及び救命救急センターの耐震化率は約9割となる見通しでしたが、未達成という結果となりました。耐震改修には大きなコストが掛かる上、運営を続けながらの改修は様々な要因も関係するためなかなか整備が進まないのが現状だと思います。鉄筋コンクリート造りの耐震改修は、柱の靭性(じんせい=粘り強さ)を増すために柱の周囲に炭素繊維シートを巻いたり、柱と壁の間に隙間を入れ柱がせん断破壊しないようにしたり、窓などの開口部に鉄骨のブレースを組んだり、コンクリートの耐震壁を現場で築造したりと、架構全体が破裂・崩壊しないように耐震化するのが一般的です。
 一方、新築の場合、現在のところ最も有効な地震対策としては免震構造ということになりますが、移転新築には膨大なコストが掛かります。耐震化推進という点からすれば改修により耐震化する方法を選択することになりますが、最近、より効果的な改修工法として、免震レトロフィットという工法が開発されてきました。構造躯体を基礎や地下部分、または地上で切り離し、そこに免震装置を挟み込むという工法です。
 免震装置により地震による強い揺れを大幅に減衰させるため、免震化された部分により上部は補強が不要になるか大幅に制限されます。
 ただし、地下が有る場合、その地下部分も含め建物全てを免震化する方法であると、揺れる建物と周囲の地盤との間に空間を設ける必要があります。建物周囲を掘削し擁壁を築造するため工事の規模も大きくなります。病院の規模、診療内容、耐震化の予算などを総合的に鑑み効果的な耐震化策を選択したいところです。

 地震に対して構造的な解決方法に触れましたが、地震後の病院機能の維持に関しても様々な角度から検討しておかなければなりません。ライフラインが寸断された場合の電力の確保では、引込ルートの複数化、太陽光発電、蓄電池、自家発電機などが有効でしょうし、水の確保としては、雑水用受水槽の備蓄量を多くするなどの設備計画も検討が必要です。
 また、建築計画としては、大きな玄関庇やピロティが一時雨よけとして機能することになり、エントランスや外来待合などに医療ガスの予備アウトレットを設置することで、医療行為を可能とすることが出来ます。2006年に移転新築した石巻赤十字病院は、地震直後から病院機能を維持させ多くの人命を救う役割を全うしました。建物周囲(駐車場など)の液状化対策や、川の氾濫記録から敷地の盛土を行ったことが津波の被害から免れることになったように、その地域の特性、地盤や地質の状況なども調査しておかなければなりません。また、災害対応時の運用マニュアルの整備や、日ごろの訓練、さらには機能再開に必須の人員の確保などにも総合的にシミュレーションしておかなければならないでしょう。

 このように、医療施設として求められるのは建物の耐震性はもとより、その機能の耐震性であると考えます。また、記録的な豪雨という言葉が日常的に使われるようになり、竜巻による被害も頻繁に起こるようになってきました。もはや亜熱帯気候といってもよい日本は、現在までに作り上げてきたインフラが機能不全の状況になりつつあります。予測しうる自然災害に対してどう対処するのか、安全安心な建物としてその機能を維持するにはどういう準備を整えておかなくてはならないか、今こそ豊な発想力が必要とされています。

医療タイムス紙 平成25年9月20日 掲載